長崎地方裁判所大村支部 昭和51年(ワ)116号 決定 1978年5月16日
原告 相浦キク
被告 平山久子 外三名
主文
本件について昭和五三年四月二一日原告からなされた口頭弁論期日指定の申立を却下する。
理由
一、当裁判所は、原告の従前の訴訟活動からして、同人には訴訟関係を明瞭ならしめるために必要な陳述を為す能力がないものと判断し、昭和五二年七月二一日の第三回口頭弁論期日において、民事訴訟法一三五条により同人の弁論期日における陳述を禁じて弁護士の附添を命じ、次回期日を約二か月後の同年九月二九日午前一〇時に指定し、その旨告知した。
ところがその間、同人は弁護士を選任することなく、右第四回口頭弁論期日に自ら出頭(先の陳述禁止処置があるため調書上は不出頭扱い)し、他方当日出頭した被告および被告代理人らはいずれも何ら弁論を為すことなく退廷したので、民事訴訟法二三八条により、このときからいわゆる休止期間が進行することとなつた。
その後原告は、右休止期間の満了直前である昭和五二年一二月二七日、書面によつて期日指定の申立をするとともに、口頭で「近日中に弁護士を代理人として選任する予定である。その弁護士からとりあえず右申立をしておくよう指示された。」旨弁明したので、当裁判所は右期日指定の申立を容れ、口頭弁論期日を昭和五三年二月二三日午前一〇時と指定し、各当事者にその旨の書類を送達した。
しかし、右期日にも再び原告本人が出頭し前記第四回期日と同じ状況であつたため、このときから再度休止期間が進行を開始した。本件口頭弁論期日指定の申立は、右休止期間進行中の同年四月二一日になされたものである。
二、そこで右申立の適否につき判断する。
(一)、民事訴訟法二三八条に基づく期日指定申立権の行使は、単に同条に定める期間内になされれば許されるというものではなく、円滑な民事訴訟制度の運用のために設けられた他の諸規定によつて保護・考慮されるべき諸利益、諸目的と調和するものでなければならず、また権利行使についての基本原則を定めた民法一条二項、三項の趣旨に適合するものでなければならない。
(二)、これを本件についてみるに、前記の如き経過のもとで繰り返し為される原告からの期日指定の申立に対し、先の陳述禁止の処置は口頭弁論期日における陳述のみに関するものであるとの理由だけで、その都度これを認容し新期日を指定していたのでは、同人の期日における陳述を禁止し弁護士の附添を命じて、訴訟の円滑、迅速な進行をはかろうとした当初の意図は没却されてしまうことになる。そればかりでなく、先にも述べたように、一度は原告の申立に応じて期日を定めたため、結局原告が期日における陳述を禁じられ弁護士の附添を命じられて以来本件申立がなされるまでに、原告には、ただ弁護士を代理人に依頼するということだけのために九か月もの期間があつたことになるのであつて、その間弁護士選任手続を了することなく、今になつてさらになされた新期日指定の申立の如きは、何ら実質的審理は期待されないにもかかわらずその度に裁判所への出頭を余儀なくされる被告らの不利益をも合わせ考えるとき、円滑・迅速な訴訟の進行をはかるため設けられた民事訴訟法一三五条の趣旨にもとるのみならず、民法一条二項、三項の趣旨にも適合せず、もはやこれを正当な期日指定申立権の行使ということはできない。
よつて、本件申立を却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 吉田哲朗)